
「さくらの専用サーバ」を束ねたプライベートクラウドを構築し、アクセス変動への柔軟な対応と高水準のサービスレベルを確保。40%ものコスト削減に成功した『オンプレミスではない』プライベートクラウド事例を探る。
IP(知的財産)をコアとしたコンテンツビジネスを展開
インターネットで多くの人がつながって楽しむオンラインゲームやソーシャルゲームは、ゲーム専用機やPC、スマートフォンなどの多様なデバイスとの融合を進め、各種ソーシャルメディアと連携しながら、日々進化を続けている。しかし、国内市場だけを見ていたのではその母数は限られており、遠からず成長も頭打ちになってしまう。
そうした中、コンテンツビジネスのグローバル化を目指し、2011年4月に事業を開始したのが株式会社ストラテジーアンドパートナーズだ。創業メンバーが独自に培ってきたマーケティング力を活かし、世界中の人々へ日本のコンテンツを発信してくことを目指す。
具体的に同社がコンテンツビジネスのコアコンピタンスとして目を付けたのは、日本のアニメや漫画に描かれた登場人物(キャラクター)や世界設定などのIP(知的財産)だ。同社の取締役であり開発部の部長を務める曽羽孝則氏は、こう語る。
「コンテンツを楽しむ多くのお客様が、何に惹かれ、何を求めているかというと、プラットフォームではなくIPそのものなのです。アニメや漫画などのオリジナルコンテンツだけでは物足りないと感じている、お客様の多様なニーズや“飢餓感”に応えていくことでビジネスの裾野が広がっていきます」
こうして同社が企画段階から開発を手がけ、2012年9月にオンラインゲームポータル「GG」とドワンゴの「ニコニコアプリ」を通じてサービスを開始したブラウザオンラインゲームの第1弾が、「魔法少女まどか☆マギカ オンライン」である。アニメ作品をモチーフに、その世界観を忠実に再現した同オンラインゲームは、多くのファンの支持を獲得。2013年1月からは「Yahoo!モバゲー」でのサービスも開始するなど、着実にプレイヤー層を拡大している。
1日の中で激変するアクセスピークにいかに柔軟かつ低コストで対応できるか
同社は他にも、「Fate/Zero [Next Encounter]」「ギルティクラウン」そして「進撃の巨人 -反撃の翼-」といったソーシャルゲーム/オンラインゲームのタイトルを次々にサービスインし、ビジネスを成長させている。しかし、この過程で浮上してくるのが、これらのコンテンツの開発や運用を支えるIT投資の問題である。
まず開発に関しては、ターゲットとするデバイスやソーシャルメディアなどのプラットフォームごとに行われるカスタマイズ作業が大きな負担となっていた。そこで同社が注力したのが、独自の開発フレームワークの整備である。
「あらかじめ設定したルールに基づいて、各プラットフォームに合わせたコンテンツを展開したり制御したり、ライブラリ(プログラム部品)を再利用できる仕組みを構築しました。これによりコンテンツ開発を大幅に効率化しています」(曽羽氏)
そして運用面での課題は、高度なサービスレベルの維持にある。オンラインゲームは、eコマースにも勝るとも劣らないミッションクリティカル性が要求される世界。ソーシャルゲーム業界には、レスポンスが5秒を超えると、そのゲームは自動的に配信停止になってしまうといういわゆる「5秒ルール」があり、ITインフラの信頼性とパフォーマンスには入念な対策を施す必要がある。
「コンテンツビジネスにとって、ITインフラが最も重要な経営資源の1つであることは言うまでもありません。とはいえ、大規模なサーバ群やストレージを常に潤沢に揃えられるわけではなく、収益やユーザー数の伸びとバランスのとれた投資である必要があります。限られた予算内でいかに効率よく必要なリソースを確保することができるか―。ITインフラのROIは非常に重要なポイントになります」(曽羽氏)
こうしたIT投資をさらに難しくしているのが、アクセスピークの問題だ。
同社 事業本部 企画・開発グループ 開発チーム インフラユニットのユニットリーダーを務める武川智法氏は、このように語る。
「オンラインゲームの基本的なアーキテクチャはWebサイトと類似していますが、膨大なトランザクションを処理しなければならない点が大きく違っています。1秒間に何度もクリックを行う、インタラクティブな操作によってゲームを進めていきます。しかも、こうしたアクセスは1日の中で均等に行われるわけでなく、学校や会社から帰宅して寝る前までの夜間に集中します。日中と夜間で発生するトランザクション数を比べると、20~100倍もの開きがあるのです」
常に快適なサービスを提供するためには、ピーク時にあわせてITインフラの処理能力を設計する必要がある。逆に言えば、オフピーク時には膨大なITリソースの余剰が生じることになり、投資の無駄遣いとなる。そこで多くのオンラインゲーム運営会社が採用しているのが、その時々で必要なITリソースをパブリッククラウドから調達するという方法だ。同社もまた、この業界の慣例に基づき、多くのリソースをIaaS(Infrastructure as a Service)から調達してきた。
プライベートクラウドだから高いサービス品質を維持できる
しかし、1日の中で拡縮を繰り返すIaaSの利用実態を細かく検証してみると、転送量の従量課金などにより、あまりコスト削減には結びついていない実情が見えてきた。加えて、不特定多数のテナントが相乗りする中で、一定以上のサービスレベルを確実に確保するのは困難だった。
「しばしば問題になるのが、ディスクのボトルネックです。大きなI/O負荷をかけるテナントがたまたま同じストレージに同居していた場合、その影響は当社のサービスのレスポンスにも及ぶことになります」(武川氏)
そこで同社は、「いったん発想を変えて、別のリソース調達方法を考えよう」(曽羽氏)ということになった。そしてたどり着いたのが、さくらインターネットが提供している複数台対応の専用サーバ(ホスティング)サービスを活用するという方法だ。Linux標準の仮想化技術である「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」を使ってこのサーバファームをプール化し、プライベートクラウドとして運用していくのである。
「事前に検証機として数台のサーバを使わせていただき、徹底的に性能評価を行ったところ、十分なサービスレベルを維持できることを確認できました」(武川氏)
もちろん、その反面で同社の管理負荷が増えるのも事実だ。OSのインストールやチューニング、仮想化ハイパーバイザーなど、パブリッククラウドでは意識する必要のなかったレイヤーの管理も自らの責任となる。しかし、この点に関しても同社は、「そもそもシステム領域をアウトソースし、ブラックボックス化していたことのほうが問題。何か問題が発生しそうな時、先手を打って対処できるノウハウを蓄積できることがより重要です」(武川氏)と前向きだ。さらに「ラック等のファシリティ、物理サーバとネットワークの管理はさくらインターネットのサービス範囲内であり、従来のオンプレミス型と比較しても管理コストは大きく減らせている」(武川氏)
こうして同社は現在、20数台の専用サーバ(物理サーバ)上に約100台の仮想サーバを実装。様々なオンラインゲームの本番サービスや開発フレームワーク、検証環境の各システム間でリソースを柔軟に融通し合いながら、効率的な運用を行っている。「あるゲームタイトルでは、年間40%以上のITインフラコストの削減を達成することができました」(武川氏)と、目に見える効果も現れ始めた。
「これまでは、まず国内市場でのビジネスを固めることに専念してきました。こうしてある程度のコンテンツが揃い、サービスを効率的に運用するITインフラを確保できた今、次のステップに向けた体制が整ったと言えます」(曽羽氏)と、同社はいよいよ海外進出に打って出る構えである。
お客様プロフィール
株式会社ストラテジアンドパートナーズ
http://strategy-p.co.jp/
住所:東京都新宿区大久保1-3-21 新宿TXビル2F
資本金:4億3,637万円
事業内容:ブラウザゲーム、その他ネットワークゲームの企画・開発・運営事業
この記事についてコメントする